交通事故での鎖骨骨折と後遺障害等級認定
交通事故で上半身を強打した場合などに、鎖骨が折れてしまう場合があります。このような鎖骨の骨折による後遺症としては、肩関節の可動域が狭くなったり、痛みなどの神経症状が残ったりすることが考えられます。
この記事では、鎖骨骨折による後遺症にどのようなものがあるか、またそのような後遺症についての後遺障害等級認定についてご説明します。
鎖骨骨折による後遺症とそれぞれの後遺障害等級認定
鎖骨骨折による後遺症にはいくつかの種類があり、それぞれによって認められる後遺障害等級が異なります。以下主な症状ごとに説明します。
変形障害
鎖骨の骨折をした場合でも、適切な治療により元通りに治癒することもあります。
しかし、運悪く複雑な骨折の仕方をした場合など、場合によっては元通りに骨がくっつかないことがあります。
例えば、変形治癒といって折れた骨同士がずれてくっついた結果、元の形とは変形した形になってしまうことがあります。
また、骨がもつ自己治癒機能の限界から、完全には骨折部分がくっつかないまま、あたかも関節のように鎖骨部分がぐらぐらと動く偽関節という症状もあります。
このような状態を、後遺障害等級認定では、変形障害とよんでおり、等級としては第12級5号「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」が認定されます。
なお、ここでいう「著しい変形」とは、裸体となったとき変形が外見からわかることが必要とされておりますので、衣服を脱いだ状態で外目から骨が変形していることが見て取れる状態のことをいいます。
外見上の変化がなければ、たとえ画像検査で骨の変形が確認できたとしても、12級5号の対象となる著しい変形とは認定されません。
肩関節の可動域制限
鎖骨の骨折により肩関節の可動域が制限されてしまう後遺症もあります。鎖骨は、肩部分で腕と体をつなぐ役割をもっているため、鎖骨の損傷により、肩が以前よりあがらなくなってしまうなどの後遺症があります。
肩の可動域制限が生じた場合や機能を補うために人口関節等を手術で挿入しなければならなくなったことについては、状態に応じて以下に説明するような後遺障害等級が認定されます。
これらについて認められる最も重い等級で、第8級6号「一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」となります。
「上肢の三大関節」とは上半身の3つの大きな関節である肩関節、肘関節、手関節のことをいい、この記事では肩関節のことをいいます。
また、「用を廃した」とは以下の状態のいずれかの状態であり、機能を喪失してしまったような状態をいいます。
- ①関節が強直(=全く動かないかそれに近い状態)したもの:ただし、肩関節にあっては肩甲上腕関節が癒合し骨性硬直していることがエックス線写真により確認できるものも含む
- ②関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの(筋肉が弛緩して自力で動かせないこと):「これに近い状態」とは他動では可動するものの自動運動では関節の可動域角度の10%程度以下となったものをいう。
- ③人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側(=事故被害にあっていない健康な関節のこと)の可動域角度の2分の1以下に制限されているもののいずれかを指します。
次に重い等級として、第10級10号「一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」があります。第10級10号の「著しい障害」とは、以下のいずれかの状態をいいます。
- 関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの
- 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち,その可動域が健側=事故被害にあっていない健康な関節のこと)の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの以外のもの
最も軽い等級としては、第12級6号「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」があります。第12級6号は、関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されているものをいいます。
神経症状
鎖骨の骨折時に周辺の神経を損傷したり圧迫されたりすることにより、慢性的な痛みやしびれ、麻痺といった神経症状が後遺症として残ることがあります。
神経症状についての後遺障害等級は、局部に頑固な神経症状を残すものとして第12級13号、局部に神経症状を残すものとして第14級9号があります。
神経症状と鎖骨骨折の因果性を医学的証拠により証明できれば前者が、証明とまではいかなくても事故後に痛みやしびれなどの自覚症状が発生しているということを医学的に証明できれば後者が認定されます。
後遺障害慰謝料について
後遺障害等級が認定されれば、後遺障害慰謝料を受け取ることができます。他の後遺症と同様、鎖骨の骨折による後遺障害慰謝料の認定基準も、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3種類があります。被害者にとって最も有利な基準は弁護士基準となりますので、弁護士基準での請求を行いましょう。
ちなみに、鎖骨の骨折による後遺障害等級について、自賠責基準と弁護士基準で請求した場合には、以下のように大きな金額の差が生まれます。
- 第8級 自賠責基準:331万円 弁護士基準:830万円
- 第10級 自賠責基準:190万円 弁護士基準:550万円
- 第12級 自賠責基準:94万円 弁護士基準:290万円
- 第14級 自賠責基準:32万円 弁護士基準:110万円
後遺障害等級認定を受けるためのポイント
鎖骨の骨折について納得のいく後遺障害等級認定を受けるためのポイントとして、以下のようなものがあります。
神経症状などについては、その症状が鎖骨骨折を原因とすることを医学的に明らかにすることが必要です。神経症状は、鎖骨骨折以外の原因でも起こりえる疾患であり、また患者さんの自覚症状にしか現れないことも多いので、証明は入念に行う必要があります。
具体的には、事故直後から専門医に通院し、その後定期的に通院して治療を受けることで、事故により症状が発生し、それが一貫して続いていることを示していく必要があります。
変形障害については、外部から見える異常については詳しく記載したり、レントゲンなど画像診断の結果等も添付したりすることが必要となります。
最後に
いかがでしたでしょうか。
鎖骨骨折で認められる後遺障害等級と認定に際しての留意点などについて、ご参考になれば幸いです。