交通事故で歯が折れた場合に後遺障害認定されることはある?
交通事故で顔面に衝撃を受けた場合などで、歯が折れてしまうことがあります。このような場合、後遺障害等級認定はされるのでしょうか。この記事では、歯についての後遺障害について解説します。
交通事故により歯が折れると後遺障害が認められる可能性はある
交通事故による歯の後遺障害は、歯牙障害として後遺障害認定の対象となりえます。
歯牙障害とは、「歯の喪失」または「歯を著しく欠損」してしまい、歯科医でクラウン、ブリッジ、インプラントなどを用いた治療を受けた後、そのような治療を実施した歯の本数に応じて認定されます。
そして、このような方法で歯を補強する歯科治療(喪失又は欠損した部分について人工物により補う)のことを「歯科補綴」と呼びます。
なお、虫歯治療にあたって歯の穴を埋める治療であるインレー(土台と被せ物・詰め物が一体型の補綴物)や、歯のひびや神経についての治療は歯科補綴にはあたらず、これらの治療のみとなった場合は、後遺障害は認定されません。
ここでいう「歯の喪失」とは、文字通り現実に自分の歯を失ってしまったこと(抜歯も含みます)をいいます。交通事故被害が直接の原因で歯を失った場合も、交通事故被害でひびが入った歯の治療などのためにやむをえず抜歯して歯を失った場合も含まれます。
また、「歯の著しい欠損」とは、交通事故によって歯冠部の体積の4分の3以上が欠けたことをいいます。
認められうる後遺障害等級認定
歯牙障害は、歯科補綴が3本以上の歯に対して行われたときに認定されます。
折れた歯が3本以上ある場合はもちろん、例えば折れた歯は2本であっても、ブリッジ治療によってブリッジをかけるために隣の歯を削る場合は、削った隣の歯も含めて計算をするため、後遺障害等級認定される可能性はあります。
後遺障害等級は1級から14級まであり、等級数が小さいほど症状が重いものとなり、支払われる後遺障害慰謝料も高額となります。歯牙障害の場合は、歯科補綴が行われた歯の数が多いほど、重い後遺障害等級認定となります。
具体的には、14歯以上に対し歯科補綴を加えた場合が10級4号、10歯以上に対し歯科補綴を加えた場合が11級4号、7歯以上に対し歯科補綴を加えた場合が12級3号、5歯以上に対し歯科補綴を加えた場合が13級5号、3歯以上に対し歯科補綴を加えた場合が14級2号となります。
加重障害となる場合
今回の交通事故被害とは関係なく、既往症として、虫歯治療や別の事故などの要因から既に歯を喪失したり著しく欠損したりしている場合があります。虫歯であれば、虫歯の状態が進行して歯の根の部分だけが残っているC4クラスという状態が、ここでいう「著しい欠損」に該当します。
このような理由から、上記基準の後遺障害等級に該当するような歯科補綴を受けていた人が、交通事故被害によりさらに歯科補綴を行った結果、より重い後遺障害等級に該当した場合、加重障害として取り扱います。
例えば、もともと虫歯で3本の歯が歯科補綴の対象となっていた人が、交通事故で4本歯を失って歯科補綴を加えた場合、計7歯の歯科補綴を加えたことになるので12級3号となります。
こうした場合、上位の等級から既往症についての等級を控除して算定します。上記の例では、12級3号から14級2号を控除した範囲により後遺障害の賠償を受け取ることができます。
歯が折れた場合に関連して認められうる後遺障害
交通事故で歯が複数折れるほどの衝撃が口に加わった場合、例えばあごの骨が折るなどの原因で、ほかにも咀嚼・言語機能の障害が残ることがあります。
このような場合、別途食べ物を噛んで飲み込む能力である咀嚼機能と、言葉を発する機能である言語機能についても後遺障害等級が認定されます。
咀嚼・言語機能障害が、あごの骨折など歯牙障害以外の原因による場合は、歯牙障害と併合障害として、より重い方の等級又はそれを一定の等級分繰り上げた等級が認定されます。
咀嚼・言語機能障害が、歯科補綴によっても関知しない歯牙損傷に基づくものである場合は、それぞれの等級のうち、上位の等級を認定します。
歯牙障害による逸失利益は認められるか
後遺障害の多くについては、後遺障害による労働能力の喪失について、将来得られたはずの利益が得られなかったものとして,逸失利益について損害賠償が支払われます。
しかしながら、歯牙障害については歯科補綴を加えた場合、歯の機能が回復されると考えられることから、関連して労働能力が喪失したと考えづらいとして、逸失利益が損害として認められにくい傾向があります。
理由としては、現在の歯科補綴は発達しており、歯科補綴により、事故で失ったり欠損したりした歯の代わりに義歯を入れるなどの治療をすることで、基本的には、歯の機能が回復されていることと考えられているためです。
3歯以上に対し歯科補綴を加えたとして歯牙欠損及び骨植不良(14級2号)、咀嚼障害及び開口障害(10級3号)、左口角・左鼻翼から頚部までの感覚消失・アロデニア(12級13号)の併合9号とされた男性について、歯牙障害と咀嚼障害を分け、前者については逸失利益を認めず後者について認めた裁判例(大阪地判平成27・10・1自保1964号51頁)もある。
もっとも、すべてのケースについて逸失利益が認められないというわけではありません。例えば、アナウンサーなど発声を重視する職業や、歯を食いしばって競技をすることが必要な競技スポーツ選手などの職業については、歯科補綴によっても完全には発声機能や租借機能が回復していないために業務に支障が出たという理由で認められる可能性もあります。
交通事故で歯が折れた場合は後遺障害等級認定の申請手続きを
後遺障害等級認定申請は自賠責事務所に対して行います。書面審査といって、申請者との面談などは行わずに提出された書類のみが審査されますので、提出する書面の準備は非常に大切です。
他の後遺障害については医師に作成してもらうことが多いですが、歯牙障害についての後遺障害診断書は、歯科医に作成してもらうことになります。
歯牙障害の後遺障害診断書は、他の後遺障害診断書とは異なる専用書式がありますので、作成を依頼する際には間違えないように注意しましょう。
主治医から症状固定が診断されたのち、上記の後遺障害診断書を用意し、自賠責事務所に提出します。歯科医によっては後遺障害診断書の作成に慣れていない場合もありますので、効果的な後遺障害診断書を準備するために、歯牙障害の後遺障害等級認定申請の取り扱い経験がある弁護士にサポートしてもらうことも一つの手です。
最後に
いかがでしたでしょうか。交通事故で歯が折れた場合の後遺障害認定についてご参考になれば幸いです。