鬱病やPTSDなどの精神的な後遺障害が残った場合 - 宇都宮の交通事故弁護士
厚生労働省によれば、交通事故の重症者のうちおよそ3割が、事故の約1か月後にうつ病やPTSDなどの精神疾患を発症するものとされています。
交通事故の被害にあうことは「つらい出来事」です。交通事故時に生命への脅威を感じるなどの恐怖の記憶が強い被害者ほど、精神疾患を発症しやすいといわれています。
しかし、うつ病やPTSDなどの精神疾患は、身体障害と異なり、目に見えないことから、その被害の程度を客観的に把握することには困難が伴います。また、同じ出来事に遭遇しても、精神疾患を発症する人としない人がおり、発症しない人のほうが多数であることから、精神疾患を発症したのは被害者の遺伝的素因や人格的脆弱性が影響しているのではないかとの非難がなされることもあります。
そこで、今回は、うつ病やPTSDなどの精神疾患の後遺障害についてお伝えします。
うつ病やPTSDなどの精神的なものでも後遺障害と認定される
うつ病やPTSDなどの精神疾患であっても、一定の基準を満たすときは後遺障害の等級認定がなされます。
かつては、心因的要因で重度の障害が発生し、その程度がひどい場合であっても第14級を上回る等級認定はしないという取り扱いがなされていました。
しかし、現在では、精神疾患についての医学的理解が深まり、精神疾患の程度に応じ、3段階に区分して後遺障害の等級認定がなされています。
医学的に立証されなければならない
脳の器質的損傷を伴わない精神障害(非器質性精神障害)が後遺障害として認められるための判定基準の1つとして厚生労働省の非器質性精神障害判定基準があります。この判定基準によれば、精神症状の状態に関する判断項目として、①抑うつ状態、②不安の状態、③意欲低下の状態、④慢性化した幻覚・妄想性の状態、⑤記憶または知的能力の障害、⑥その他の障害(衝動性障害、不定愁訴など)を挙げています。
また、ここで能力に関する判断項目として、①身辺日常生活、②仕事や生活に積極性や関心を持つこと、③通勤や勤務時間の厳守、④普通に作業を持続すること、⑤他人との意思伝達、⑥対人関係・協調性、⑦身辺の安全保持、危機の回避、⑧困難や失敗への対応を挙げています。
それぞれを説明します。
精神症状の状態に関する判断項目の①抑うつ状態とは、持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂鬱である、希望がない、絶望的である等)、おっくう感(何をするのもおっくうになる)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態をいいます。
②不安の状態とは、全般的不安、恐怖、心気症(重病にかかっていると病的に思い込むこと)、強迫などの強い不安が続き、強い苦悩を示す状態をいいます。
③意欲低下の状態とは、全てのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず行動を起こしても長続きしない、口数が少なくなり日常生活上の身のまわりのことにも無精となる状態をいいます。
④慢性化した幻覚・妄想性の状態とは、自分に対する噂、悪口、命令が聞こえるなど、実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っているなど、内容が間違っており、確信が異常に強く、訂正不可能であり、その人個人にだけ限定された意味付け(妄想)などを持続的に示す状態をいいます。
⑤記憶または知的能力の障害とは、解離性健忘(自分が誰であり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまったり、一定の時期や出来事のことを思い出せなかったりする状態)や解離性障害(日常身辺生活は普通にしているのに、改めて質問すると自分の名前を答えられない、年齢は3つ、1+1は3のように的外れの回答をするような状態)をいいます。
⑥その他の障害とは、上記に分類できない症状、例えば、多動(落ち着きのなさ)、衝動行動、徘徊、身辺的な自覚症状、不定愁訴などをいいます。
そして、能力に関する判断項目の
①身辺日常生活とは、入浴や着替えなどの清潔保持を適切にすることができるかどうか、規則的に十分な食事をすることができるかどうかについて判定するものです。
②仕事や生活に積極性や関心を持つこととは、仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の仕事や日常生活に対する意欲や関心があるかどうかについて判定するものです。
③通勤や勤務時間の遵守とは、規則的な通勤や出勤時間などの約束時間の遵守が可能かどうかについて判定するものです。
④普通に作業を持続することとは、就業規則にのっとった就労が可能かどうか、普通の集中力や持続力をもって業務を遂行することができているかどうかについて判定するものです。
⑤他人との意思伝達とは、自主的に発言することができるかなど、他人とのコミュニケーションが適切にできるかどうかを判定するものです。
⑥対人関係・協調性とは、円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうかについて判定するものです。
⑦身辺の安全保持、危機の回避とは、身のまわりの危険等から適切に身を守れるかどうかを判定するものです。
⑧困難や失敗への対処とは、新たなストレスを受けたとき、ひどく緊張したり混乱したりすることなく対処できるかどうかなど、どの程度適切に対処できるかどうかどうかを判定するものです。
これらに該当するかどうかは、精神科医が医学的判断に基づいて行いますので、現状分析とそれに伴う医学的な判断が不可欠であるといえます。
事故との因果関係が認められるために
損害賠償請求が認められるためには、交通事故によってうつ病やPTSDなどの精神疾患を発症したといえなければなりません(これを「因果関係」といいます)。
具体的には、事故態様、負傷の程度、被害者の事故前後の生活や精神状況、発症した精神疾患の程度、加害者の対応等を総合的に考慮して、医師の意見を参考にしながら判断していくことになります。
症状固定のタイミングはどこか
症状固定とは、治療を継続しても症状の改善が見込まれない状態をいい、医師が医学的判断に基づいて行います。
ただし、一般的に、重い症状を残している者(8つの能力のうち、①身辺日常生活の能力が失われているか、②から⑧のうち2つ以上の能力が失われている者)については、療養を継続すれば症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的になったとしても、原則として療養を継続した上で、それでもなお改善の見込みがないと判断されたときに症状固定となります。
鬱病やPTSDによる後遺障害等級
前述したとおり、非器質性精神障害の後遺障害の等級認定は3段階に区分して行われます。
通常の仕事はできるものの、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるときは、第9級10号が認定されます。具体的には、①就労しているか就労意欲がある者については、能力の②から⑧のうちいずれか1つの能力が失われているか4つ以上についてしばしば助言や援助が必要とされるとき、②就労意欲の低下または欠如により就労していない者については、身辺日常生活について時々助言や援助を必要とするときをいいます。
通常の仕事はできるものの、非器質性精神障害のため、多少の障害が残るときは第12級13号が認定されます。具体的には、①就労しているか就労意欲がある者については、能力のうち4つ以上について時々助言や援助が必要とされるとき、②就労意欲の低下または欠如により就労していない者については、おおむね身辺日常生活ができるときをいいます。
通常の仕事はできるものの、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すときは、第14級9号が認定されます。具体的には、①就労しているか就労意欲がある者については、能力のうち1つ以上について時々助言や援助が必要とされるときをいいます。
慰謝料と損害賠償の相場
交通事故によってうつ病やPTSDが発症して後遺障害の等級認定がなされたときは、認定された等級に基づいて慰謝料その他の損害賠償請求をすることになります。
後遺障害が発生したときに特有の損害賠償としては、①慰謝料、②逸失利益があります。
まず、慰謝料ですが、第9級で690万円、第12級で290万円、第14級で110万円となります。
つぎに、逸失利益ですが、原則として、交通事故にあう前の現実の収入額を基準として、第9級で35%、第12級で14%、第14級で5%にそれぞれ相当する額について、就労可能年数(67歳)までの期間分が損害となります。すなわち、25歳で源泉徴収票に記載された年収が400万円の人が交通事故によって第9級の後遺障害になると、400万円×35%×67歳までのライプニッツ係数17.425=2439万5000円が逸失利益となります。ここで「ライプニッツ係数」とは中間利息控除を考慮するために用いる係数のことをいいます。
ただし、うつ病やPTSDなどの精神疾患は、同じショックにさらされた人の中で発症する人と発症しない人に分かれる点で、身体障害とは大きく異なります。すなわち、精神疾患を発症する人は、遺伝的素因や人格的脆弱性が普通の人よりも強いせいであるとの反論を受け、しばしば裁判所はその反論を受け入れ、被害者が手にするはずの賠償金を大幅に減額してしまいます(これを「素因減額」といいます)。
裁判所が何割を減額するのかについて明確な基準はなく具体的事案に応じて裁判官の判断により減額されることになります。
このように、うつ病やPTSDなどの精神疾患は様々な症状が発現し、しかもその症状はMRI等の画像診断によって客観的に裏付けることができないという特徴があります。しかも、後遺障害の等級認定や因果関係の立証に成功しても、大幅に素因減額されてしまう可能性もあります。
そこで、できるだけ早期に弁護士に相談し、弁護士のアドバイスを受けて行動することが重要です。
当事務所では、交通事故の相談料および着手金を無料としており、お気軽にご相談いただけます。賠償金増額のためのノウハウを多数蓄積しておりますので、まずは出来るだけ早い段階でご相談ください。