肩腱板についての後遺障害等級と申請のポイント
肩の関節は腱板という組織(腱や筋の集まり)により覆われています。
交通事故にあって、転倒して地面に手をついた際に肩をひねってしまったなどの原因により肩腱板が切れてしまうことがあります。それでは、肩腱板が断裂してしまった場合には、後遺障害等級は何級が認められるのでしょうか。
また、後遺障害等級申請にあたって、注意しておきたいポイントをご説明します。
肩腱板断裂とは
肩腱板は肩関節をベルト状に覆っている組織で、4つの筋肉で成りたっています。棘上筋(きょうくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)の4つとなります。
交通事故被害による肩腱板断裂は、ほとんどの場合、このうち棘上筋という部分の断裂であるといわれています。断裂は部分的な断裂の場合も、完全に断裂することもあります。
交通事故で肩腱板断裂をしてしまう状況としてよく見られるものに、車に乗っていて後方から追突された際の衝撃でハンドルの方へ腕を突き出した、自転車やバイクに乗っていて衝突され転倒の際に落下して地面に手をついた、歩行者が自動車に肩部分をぶつけられた等があるようです。
肩腱板断裂の症状・診断と治療法
肩の腱板断裂をした場合、肩部分に強い痛みと腫れがでます。特に完全断裂では自分で腕をあげることが難しいような痛みが発生するといわれています。
医師による診断としては、患者の自覚症状に加え、腕を自力であげられるか、肩関節に拘縮や萎縮があるか、腕をあげた際に軋轢音がするか等の要素で診断します。
腱板損傷のポイントは①画像所見があること②外傷性であること(事故との因果県警があること)の2点です。
①についてですが後遺障害等級申請をする際の立証資料ともなりますが、MRI検査による診察もします。画像所見はMRI検査では、肩の腱板に輝度変化が出ることとされますが、この判断は難しく肩の専門医でないと判断が難しいことが多いといえます。
なお、医師によってはレントゲン検査で確認することもありますが、肩の腱板は柔らかい組織であるためレントゲンにはっきりと映らないことがあり後遺障害等級申請の際の立証資料としては不十分と判断されてしまうこともあるので、MRIを希望したほうがよいでしょう。
なお、腱板損傷それ自体の画像所見ではありませんが、腱板が損傷したことを間接的に裏付ける画像所見として、シュントンラインの乱れが挙げられます。これは肩甲骨から上腕骨にかけてのアーチ状のラインのことですが、腱板損傷の場合には、上腕骨頭が上方化してくることにより、このラインに乱れが生じます。
また、肩関節の可動域も検査します。肩関節は色々な方向に動かすことができる関節ですので、屈曲・伸展外転・内転・外旋・内旋など各運動についての可動域を検査してもらいましょう。
治療方法としては、軽度の損傷の場合は、温存とリハビリで治癒することもあります。若年層は回復力が高い傾向にあるので、リハビリで回復するケースも多いです。広範囲に断裂した場合は、腱板修復術という手術が行われることもあります。
ただし、中高年の場合は、肩関節の拘縮を避けるために、手術ではなくギブスでの固定による治療が選択されることも多いようです。
症状固定と診断される時期は、一般的には怪我をしてからおよそ6ヵ月後が目安ですが、そもそも腱板は外傷の有無にかかわらず経年によって傷んでいることが多いため、上述の通り②事故との因果関係があること(外傷性があること)が求められます。
経年性の場合には肩関節周囲炎で、一般的に四十肩・五十肩と呼ばれるものです。特に40歳以上の年齢の方が交通事故で受傷した場合には、経年性を疑われやすいので注意が必要です。
外傷性ありと判断されるための判断要素としては以下が挙げられます。
- 肩を受傷した際の事故態様
- 事故直後に肩の症状を訴えているか
- 画像所見(特に左右両側のMRI画像比較、事故前のMRI画像比較、上腕骨骨頭の骨棘の有無、肩の外見上の内出血等の画像、深層までの損傷かどうか)
- 症状について受傷直後から治療を受けているか、事故を契機として症状が発現したか
- 自力で外転90度以上まで上肢を上げられるか、他動で外転90度以上まで上肢を上げて自力で維持できるかを検査する方法(ドロップアームサイン)の検査結果が陽性かどうか
- 事故から早期にMRI検査を受けているか
- 医者の判断
- 受傷者の年齢
肩腱板断裂で認定されうる後遺障害等級
可動域の測定を行い、健側と比べ可動域が1/2以下に制限されている場合は、後遺障害等級として10級10号、健側と比べ可動域が3/4以下に制限されている場合は12級6号が認定されうる可能性があります。
また、肩関節について「関節の用を廃したもの」と評価される重症の場合は、8級6号に認定される可能性があります。
可動域は問題ないが、慢性的な痛みが患部に残存する場合には、神経症状の後遺障害として重さに応じて12級13号または14級9号に該当する可能性があります。
12級以上の後遺障害等級を認定してもらうためには、MRIなどの画像所見で、損傷が客観的に確認できることが必要です。
後遺障害等級認定での留意点
肩腱損傷は交通事故に限られず、加齢による機能低下、スポーツ外傷など日常生活における他の要因からも発生します。
特に高齢となるほど、交通事故前から腱板の機能低下により部分的に損傷が発生していることも多く、慢性疾患との区別が難しくなります。
そのため、後遺障害等級の認定が難しいという特徴があります。このため、上述のポイントを踏まえ、後遺障害等級認定申請や示談交渉の際は、交通事故を原因として障害である腱板断裂が生じたという因果関係を立証していく必要があります。
因果関係を立証して適切な後遺障害等級認定を受けるために被害者が採るべき対応としては、上述の通り、事故受傷後なるべく早期にエコーやMRI検査を受け、その後も継続的に受診を続けることが大切です。
これにより、検査の画像から主治医に、損傷が交通事故から間もない時期に発生したものなのかそれとも長らく存在している損傷なのかを判定してもらい、後遺障害診断書に記載をしてもらうことにより、事故との因果関係を証明することができます。
また、あわせて、なるべく早期に、可動域検査も受け、後遺障害診断書に記載してもらいましょう。可動域により後遺障害等級が異なるため、後遺障害等級認定申請で定められた方法である日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会の「関節可動域表示ならびに測定方法」に準拠した「第2 関節可動域の測定要領」に沿って検査してもらうよう医師に依頼しましょう。
そのうえで、被害者申請という方法で自賠責事務所に後遺障害等級申請をすることがおすすめです。被害者申請は、被害者自ら後遺障害等級申請の資料を準備し提出する必要があるので、手間はかかるものの、その分吟味された証明資料を用意できるので、適切な後遺障害等級認定を受けられやすくなります。
また、交通事故に詳しい弁護士に依頼をして、医師と適切なコミュニケーション方法や受けるべき検査等を相談しつつ準備をすることがおすすめです。
後遺障害が認められた場合の慰謝料額
他の後遺障害と同様、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準のどれで算定するかで異なりますが、被害者としては最も高い弁護士基準で請求するべきといえます。弁護士基準での慰謝料額は以下のとおりとなります。
【可動域制限】
- 8級6号 830万円
- 10級10号 550万円
- 12級6号 290万円
【神経症状】
- 12級6号 290万円
- 14級9号 110万円
最後に
いかがでしたでしょうか。
肩腱板についての後遺障害等級と申請のポイントについてご参考になれば幸いです。