改正債権法~交通事故実務に与える影響③
前回の「①時効」に引き続き、今回は債権法改正が交通事故実務に与える影響「②法定利率・遅延損害金・中間利息控除」「③不法行為等により生じた債権を受動債権とする相殺の禁止についての改正」について、お話いたします。
法定利率変動制の採用
現行民法では、民事法定利率として、年5%の固定制を採用していますが、改正民法では法定利率の変動制が採用されることとなりました。
法定利率について
改正民法施行当初の法定利率は年3%(改正民法404条2項)になりました。
そして、3年ごとに利率は見直され変動の有無及び変動幅を決めることになりました(改正民法404条4項)。
具体的には、直近変動期の※「基準割合」と当期の「基準割合」の差に相当する割合を直近変動期の法定利率に加算又は減算をし、1%未満の端数を切り捨てることになります(404条4項)。
※基準割合とは、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年12月までの各月における短期貸付の平均利率合計(5年分60か月分)を60で除した割合である(端数切捨て)。
基準割合は法務大臣が告示する。
経過措置について
経過措置については、改正法施行日前に生じた利息は従前の通りとされています。
遅延損害金の改正点
遅延損害金についての改正点は以下の通りです。
- 遅延損害金に関する利率も法定利率と同様。
- 遅延損害金の法定利率は「遅滞の責任を負った最初の時点」(改正民法419条1項)に定まる。
- 交通事故ならば「遅滞の責任を負った最初の時点」は事故日をいう。
- 一旦利率が定まれば、その後に利率の変動があったとしても影響はうけない(改正民法412条1項)。
つまり、事故日の利率が3%ならば以後の利率も3%ということになります!
以上の法定利率と遅延損害金の改正が実務に与える影響ですが、法定利率が変更となることに注意する必要があります。
また、変動するため、常に現在の変動利率を把握しておく必要があるということではないでしょうか。
中間利息控除の改正点
次に中間利息控除についての改正についてお話をしていきます。
改正点としては、今まではなかった中間利息控除についての規定が追加されたという点が重要でしょう。
従前の判例の通り(最判平成17年6月14日)、法定利率を用いるべきであることが明示されました。
また、逸失利益のみならず、将来負担すべき費用(将来介護費等)についての損害賠償額を定める場合にも中間利息控除をすべきことが明文化されました。
控除の法定利率起算時=不法行為発生時、つまり交通事故時点になりますので注意が必要です。
経過措置について
経過措置ですが今回の規律は施行後に生じた損害賠償請求権にのみ適用されることになります。
中間利息控除の改正が実務に与える影響ですが、逸失利益の計算は改正後のライプニッツ係数で計算するということになりますので、これにより逸失利益の金額が大きく変わってくると思います。
「③不法行為等により生じた債権を受動債権とする相殺の禁止についての改正」について
最後に、③不法行為等により生じた債権を受動債権とする相殺の禁止についての改正について話をしていきます。
改正民法509条は、①悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務②人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務を受動債権とする以外は、不法行為による損害賠償債務であっても受働債権として相殺できるとしました。
経過措置について
経過措置ですが、改正施行日前に生じた債権を受働債権とする場合は従前の通りとなります。
この点の実務に与える影響を考察してみましたが、「悪意」とは故意を超える積極的意欲によるものであるため、物損事故の場合による損害賠償請求の場合は相殺が可能となったという点でしょう。
最後に
いままでも物損事故の場合には相殺合意によるクロス払い等は実務上行われていましたが、この条文の新設により実務上どのような影響が出てくるのか・・・
(一方的に相殺通知を送付されるなど)未知数ですが、当面の動きを見ていく必要があると思われます。
以上3回にわたって、債権法改正が交通事故実務に与える影響について話をしてきました。
当事務所では、多数の交通事故案件処理について内部的に情報共有をしておりますので、今回の改正が実務に与える影響について、いち早く分析していきたいと考えます。
交通事故問題は一般の方には分かりづらいことも多いので、豊富な案件実績を持つ当事務所に是非、ご相談ください。