改正債権法~交通事故実務に与える影響④
民法改正に伴い、自賠責保険における考え方も一部変更になりました。相手が任意保険会社非加入の場合は自賠責保険からの回収が必須になるため、この点の変更は回収できる金額に如実に反映されてきます。
また、相手が任意保険会社に加入している場合でも賠償金の提案の前提となる自賠責保険の考え方は重要になってきます。どのような点に変更があったのか、以下、説明していきます。
ライプニッツ係数※についての変更点
改正民法において、法定利率が5%から3%へと変更となり、これに伴いライプニッツ係数も変更となりました(詳細は赤い本等に記載がありますので、ここでは割愛します)。
当事務所で取り扱いの多いむちうち案件において、賠償金の計算上よく使う5年、10年は以下の通り変更になっています。
労働能力喪失期間 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
5年 |
4.329 |
4.580 |
10年 |
7.722 |
8.530 |
※ライプニッツ係数とは
逸失利益の算定の際、将来受け取るはずの金銭を現時点において一時金として受け取ることができるため、かかる金銭を運用したと仮定して得られる利息分を控除しなければ、被害者は利息分を余分に受け取ることになってしまいます。
そこで、かかる利息分を控除するためにライプニッツ係数を用いて逸失利益を算定します(いわゆる中間利息控除)。
傷害部分についての変更点
傷害部分について受領できる保険金は、以下の通り変更になりました。
費目 | 改正前 | 改正後 | 備考 |
---|---|---|---|
入通院慰謝料 |
4200円/日 |
4300円/日 |
|
休業損害 |
5700円/日 |
6100円/日 |
|
入院看護料 |
4100円/日 |
4200円/日 |
原則、12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合。 |
自宅看護料・通院看護料 |
2050円/日 |
2100円/日 |
原則、12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合。13歳以上は医師が看護の必要性を認めた場合に限る。 |
後遺障害慰謝料についての変更点
後遺障害慰謝料について、以下の通り金額が変更になりました。
①自賠法施行令別表第1(要介護)※
等級 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
1級 (被扶養者あり※) |
1600万円 (1800万円) |
1650万円 (1850万円) |
2級
(被扶養者あり) |
1163万円 (1333万円) |
1203万円 (1373万円) |
◆()内は被害者に被扶養者がいる場合
②自賠法施行令別表第2
等級 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
1級
(被扶養者あり) |
1100万円 (1300万円) |
1150万円
(1350万円) |
2級
(被扶養者あり) |
958万円 (1128万円) |
998万円
(1168万円) |
3級
(被扶養者あり) |
829万円 (973万円) |
861万円
(1005万円) |
4級 | 712万円 | 737万円 |
5級 | 599万円 | 618万円 |
6級 | 498万円 | 512万円 |
7級 | 409万円 | 419万円 |
8級 | 324万円 | 331万円 |
9級 | 245万円 | 249万円 |
10級 | 187万円 | 190万円 |
11級 | 135万円 | 136万円 |
12級 | 93万円 | 94万円 |
13級 | 57万円 | 57万円 |
14級 | 32万円 | 32万円 |
◆()内は被害者に被扶養者がいる場合
◆13級・14級は増額なし
※別表1と別表2との違いについて
被害者が当該事故を起因として、要介護状態になっているか否かで区別します。該当要件において、例えば、別表第1では「…介護を要するもの」と記載されているのに対し、別表2の該当要件にはかかる文言は記載されていません。
なお、別表1における1級と2級の違いは、前者が常時介護状態であるのに対し、後者は随時介護状態であることです。
上述の通り、後遺障害等級13級と14級については慰謝料の増額はありませんでしたが、それより上の等級の後遺障害慰謝料は金額の変更がなされているので注意が必要です。
ちなみに、自賠責保険に対し直接被害者請求をして後遺障害申請及び自賠責保険金を請求した場合の流れは以下の通りになります。
14級を例にすると、
- 後遺障害申請を行い14級に該当した場合、自賠責保険会社より75万円を限度とした保険金の支払いを受ける。
- この75万円という額は、後遺障害慰謝料32万円(上記表参照)と後遺障害逸失利益43万円を合算した額となる。
12級を例にすると
- 自賠責保険会社より224万円の支払をうける
- この内訳は後遺障害慰謝料93万円(改正前)+後遺障害逸失利益131万円となる。
死亡についての変更点
交通事故で死亡した場合における自賠責保険金の変更は以下の通りです。
費目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
死亡慰謝料 (本人分) |
350万円 |
400万円 |
葬儀費用 |
60万円 |
100万円 |
ちなみに、自賠責保険における死亡による損害は、次の3項目があります。
- 慰謝料…本人の慰謝料の他、遺族慰謝料、被扶養者がいた場合の増額分(200万円)を含む。
- 逸失利益
- 葬儀費
上記(1)~(3)の合計額が自賠責保険より支払われますが、限度額(3000万円)があります。
まとめ
以上、変更点を説明してきましたが、民法改正のあった2020年4月1日以降の事故については自賠責保険の考え方に変更があり保険金も変更になっています。これらの変更点について、個人では理解困難な部分が多いことは否定できません。
当事務所では交通事故案件多数取り扱っており、改正点を踏まえた勉強会も随時実施しております。交通事故にあわれた場合にはおひとりで抱え込まず、交通事故の賠償に強い当事務所にぜひご相談ください。