上肢の関節機能障害と後遺障害等級認定
交通事故被害にあい、上半身の各関節部分や周辺組織に損傷を負うことにより、関節の可動域制限が制限される、つまり従前にように十分に関節を随意に動かすことができなくなるとという後遺症が残ることがあります。
この記事では、上肢の関節機能障害とそれについて認められる後遺障害等級認定についてご説明します。
上肢の関節機能障害とは
人の上半身には、3大関節といって、肩、腕、手首の大きな関節があります。これらの関節と手関節から先の手指を総称して上肢といいます。
上肢について、交通事故によって従前よりも可動域が制限されたり、機能を補完するために人工関節や人口骨頭を挿入したりした場合には、後遺障害等級認定の対象となります。
上肢の関節可動域が制限される理由
交通事故被害により上肢の関節が動かしづらくなってしまう理由には大きく二つあります。
1つ目は、関節の骨組織や関節をとりまく軟部組織である筋肉、靭帯や関節包が事故により器質的に変化することが原因である場合です。2つ目は、関節周りの神経がマヒしてしまうが原因となる場合です。
いずれの原因にしても、後遺障害等級認定に際しては、交通事故との因果関係により関節の動きが制限されているということを具体的に主張立証していくことが必要です。
例えば、1つ目の原因については、関節の骨折と治療による癒合が不良であったこと、2つ目については事故により神経が損傷していることなどを示していく必要があります。
上肢の関節の機能障害の測定方法
後遺障害等級は、可動域の制限度合に応じて認定される
上肢の関節の機能障害について後遺障害等級認定を受けるためは、怪我を負った関節が健康な状態の関節と比較してどのくらい曲がらなくなってしまったのかを測定して判断します。後遺障害等級は、可動域の制限度合に応じて認定されます。
可動域の測定方法としては、1995年に日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会が策定した「関節可動域表示ならびに測定方法」という基準に基づいて、医師が角度系という器具を利用して、5度刻みで測定します。事故被害にあっていない健康な関節可動域と比較して、障害が残った関節可動域との差異を測定します。
例えば、障害が残っているほうの関節の可動域が、怪我をしなかった方に比べて1/2に制限されている場合は10級、3/4以下に制限されている場合は12級となります。
留意点として、例えば医師の目視による判断など、上述以外の測定方法で実施したり、測定結果を後遺障害診断書に記載しなかったりすることがないように、医師に十分に確認をしておく必要があります。
また、測定は同じ医療機関において複数回実施する場合があります。この場合、測定の数値の変動や経過が自然であれば証拠としての信用力が増しますので、可能であれば複数回実施してもらいましょう。
主要運動と参考運動
上述の「関節可動域表示ならびに測定方法」という基準によって測定される各関節の運動は、主要運動と参考運動の2種類に分けられています。
主要運動とは、各関節についての日常の動作にとって最も重要な動作をいい、原則として、後遺障害等級認定にあたっての関節の可動域は、それぞれの主要運動の可動域について評価します。
ただし、関節の場所によっては、主要運動のほかに参考運動も加味して、関節の機能障害の程度を評価することもあります。
肩関節についての主要運動は、屈曲、外転・内転、参考運動は伸展、外旋・内旋となります。ひじ関節についての主要運動は屈曲・伸展で、参考運動はありません。手関節の主要運動は屈曲・伸展で、参考運動は橈屈、尺屈です。前腕の主運動は回内・回外で参考運動はありません。母指の主要運動は屈曲・伸展、橈側外転、掌側外転で参考運動はありません。手指の主要運動は屈曲・伸展で、参考運動はありません。
自動運動と他動運動
また、上述の基準により測定される可動域には、2種類があります。
一つ目は自動値といって患者さんが自分の力で動かした場合の可動域を指し、二つ目が他動値といって主治医等第三者が力を加えて関節を動かした場合の可動域をいいます。
後遺障害等級認定にあたっては、基本的には、他動値を計測して後遺障害等級が評価しますが、例外的に麻痺がある場合などは自動値を評価します。
具体的な後遺障害等級
それでは、具体的にどの程度可動域が制限されていれば、どの後遺障害等級に認定されるのでしょうか。3大関節である肩、腕、手首については以下の表のとおりとなります。
等級 | 内容 |
---|---|
第1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの |
第5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの |
第6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
第8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
手指の場合の機能障害の後遺障害等級認定基準は上肢の場合と異なり、以下のとおりとなります。
表の中の「用を廃した」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、または中手指節関節もしくは近位指節間関節に著しい運動障害を残すものをいうとされ、具体的には以下のいずれかを指すものとされています。
- ア:末節骨の長さの半分以上を失ったもの
- イ:中手指節関節又は近位指節間関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている場合
- ウ:おや指について、橈側外転又は掌側外転のいずれかが健側の可動域角度の2分の1以下に制限
- エ:手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失した場合
等級 | 内容 |
---|---|
第4級6号 | 両手の手指の全部の用を廃したもの |
第7級7号 | 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの |
第8級4号 | 1手のおや指を含み3の手指またはおや指以外の4の手指の用を廃したもの |
第9級13号 | 1手のおや指を含み2の手指またはおや指以外の3の手指の用を廃したもの |
第10級7号 | 1手のおや指またはおや指以外の2の手指の用を廃したもの |
第12級10号 | 1手のひとさし指、なか指またはくすり指の用を廃したもの |
第13級6号 | 1手のこ指の用を廃したもの |
第14級7号 | 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
最後に
いかがでしたでしょうか。
上肢や手指の関節可動域制限について認められる後遺障害等級についてご参考になれば幸いです。